『一生モノの物理学 文系でもわかるビジネスに効く教養』 物理学こそがこの世界を変えてきた【夏休み 読書シリーズ】

自分のイヤフォンがどのようにノイズキャンセリングをしているか、説明できますか?

白状しよう。自分は高校生の時に理数系科目を諦めた。数学やら科学やらがどんどん抽象度が増してきて、現実世界と結びつきがある学問であると思えなくなってしまったところで興味を完全に失ってしまい、ついていけなくなってやる気も失った。もちろん物理も早々に匙を投げた。

こんなの勉強したところで将来絶対に使わない。当時はそう思っていた。今は後悔している。

使わないどころか、今自分の身の周りにあるテクノロジーはどれも物理現象をうまく利用することで成り立っている。様々なテクノロジーのおかげで世界が変わっている、人間の暮らしはどんどん良くなっていると思っていたが、そのテクノロジーを可能にしているものの基礎にあるものは物理学だった。物理を学ぶことによって世界を変えられる、といって間違いはないと思う。

本書は、身近にあるテクノロジーを挙げ、それがどういう原理で機能しているかを分かりやすく説明する。おお、これはこういう原理で動いていたのか、と楽しみながら基本的な物理の法則を学ぶことができる。

光の屈折や入射角・反射角、ファラデーの電磁誘導の法則、クーロン力(静電気力)、作用・反作用や運動量、重力加速度、ローレンツ力….

これだけでは字面を見ただけでもう諦めたくなるかもしれないが、これらの物理現象・法則をうまく活用することで内視鏡やMRIによる検査、重粒子線によるがん治療、飛行機やリニアモーターカーでの長距離移動、そしてノイズキャンセリングイヤホンで高品質な音楽を楽しむということができている、と聞けばちょっとは身近に感じられるのではないだろうか。

「高度に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない」という非常に有名な言葉がある。魔法のように見える科学技術も当然誰かによって生み出されたものだ。こうすればこうなる、という物事の法則を十分に学び、それであればこうすることでこういう目的に使えるだろう 、と応用することでその技術は生まれている。そして「こうすればこうなる、という物事の法則」こそが物理学なのだ。

この本の副題は「文系でもわかるビジネスに効く教養」。ビジネスパーソンへ本を売るための工夫としてこの副題が付けられたのであろうが、個人的には今まさに物理を学んでいる中高生に読んでもらいたい。自分達が今学んでいることの延長線上にあるもの・成果がわかれば複雑な理科系科目への興味も増すのではないだろうか。

これからの世界を生きる上で重要になるのがSTEAM (Science, Technology, Engineering, Art, Mathmatics)教育であると叫ばれて久しい一方で、日本では大学受験の際に理数系科目を選択する学生の数がどんどん減っており、「理系離れ」が進んでいるのが現状だ。

著者はこのような状況に危機感を感じ、身近なトピックスを取り上げることで読者に自然に物理学に親しんでもらおうとしてこの本を書いたそうだ。

もしあなたが今まさに夏休み中の学生だとしたら、この本を読むことで今後の物理学を楽しんで勉強できるようになるかもしれない。

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Posted by Uichan